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ドクターが教える!病気あれこれ

閉塞性動脈硬化症

閉塞性動脈硬化症とは?

 手や足に行く動脈の内腔が動脈硬化のために狭くなってしまい、手足の血流障害が出てくる病気が閉塞性動脈硬化症です(図6-1、2)。狭心症と同じ現象が手や足で起きているものです。手の血流が低下した場合は、あまり手の症状は出現しませんが、鎖骨下動脈という脳血流と関連する部位に発生することも多く、めまい、失神発作などで発見されることが多々あります。

足の動脈解剖と下肢動脈狭窄例
閉塞性動脈硬化症で問題となりやすいのが、足の血流障害です。足の場合は、足が冷たいなどの症状や歩いてしばらくするとふくらはぎあたりが痛くなり、休むと症状が治まる(間欠性跛行)、足がすぐつってしまう、などという症状が出現します。また、足の指の色が悪くなって気づかれたり、足に創ができたのちに血流が悪いため創が治りにくいということで来院されることもあります。 この病気が進行すると、血流低下のため安静時の痛みが始まり、さらに悪化すると足が腐ってきます。ひどい感染が合併し全身状態が悪化することもあります。このような場合、腐ってきた部分を切断することで痛みもなくなり、病気も無くなってしまうのですが、高齢の方であると、反対側の足の筋力、全身の筋力の低下のため義足による歩行が可能となる確率は非常に低いので、足の切断後は、ベッド上の生活、寝たきり状態となってしまいます。比較的若い患者では、義足により歩行可能にはなりますが、以前と比べて社会的活動範囲が低下にし、これまでの社会生活が維持できなくなる可能性もあります。 このため、足の切断を防ぐことがこの病気に対する絶対的治療の目標であり、次に症状の緩和により社会生活を改善、維持することにあります。糖尿病の方に多く発生しますが、積極的に血行再建(血流をよくする)をして歩けるよう維持することで糖尿病の運動療法を行えるように維持することも大切な治療目的になります。幸い、足の血流改善のための手術は、それほど侵襲が大きくないので、積極的に手術を受けてもらうことをお勧めします。

一般的な閉塞性動脈硬化症の治療

保存的治療

 一般に、血栓予防薬、血管拡張作用のある薬を内服することと運動療法になります。比較的症状の軽い場合は、足の重度な虚血(血液が足りない状態)になるまでに時間があるため、側副血行路(自然にできてくるバイパス血管)が発達してくるのを待つことが可能であります。また、歩行を積極的に行い、足が痛くなりはじめたら休んで痛みが落ち着いたらまた歩くという繰り返しの歩行が自然なバイパス路ができるのを促してくれます。しかし、急速に進行している場合は、治療効果が十分期待できず側副血行が発達する時間が得られないこともあり、積極的治療が必要となります。

カテーテル治療

血管内手術の技術が発達してきたことにより、限局的な病変ではカテーテル治療が患者の負担も少なく十分な治療効果を得られるようになりました。しかし、足の動脈硬化では、石灰化して非常に硬くなった病変が多く、また、長い範囲で閉塞してしまったりすることが多く、カテーテル治療では効果が得られないことも多くあります。骨盤内の動脈の狭窄では治療成績は良好です。

一般的な外科的治療

基本的には、バイパス手術となります。狭くなる手前の血管と詰まってしまった部位の先に、自身の血管(自家静脈)や人工血管などで橋渡しをすることで、新しい血液の流れを作成します。通常は、元々の血管と同じ走行になるように人工血管でバイパスする(解剖学的バイパス)ほうが長期的成績がよいと言われています。しかし、腹部大動脈レベルで血管がせまくなってしまっている場合などでは、手術で開腹する必要があり手術侵襲が大きくなります。このような場合、高齢者などでは手術のリスクが高まるため、正常な血流とは違う経路でバイパスする(非解剖学的バイパス術)と、手術侵襲を小さくすることが可能となります。たとえば、左足の血流が低下しているため右足の付け根の動脈から左足の付け根の動脈にバイパスするとか、肩口にある手の血管から足の血管にバイパスすることで、体表だけの手術となり、体に負担が少なくなります(図6-2)。この術式の欠点は、バイパスが機能する期間が解剖学的バイパスに比べて少し短いという点ですが、人工血管の改良によりかなり良い成績が得られるようになり、十分な治療効果が期待できるようになりました。

CT血管造影での動脈閉塞

当科での治療方針

できる限り足を切断せずにすむように対処することが、第一目標であります。当科では、積極的に血行再建する方針で臨んでいます。足の血行再建手術では、従来は膝上までがバイパスの限界とされ、今でもほとんどの病院では膝上までが血行再建の適応として治療しておりますが、当科では、膝下の血管(膝窩動脈、前頸骨動脈、後頸骨動脈)へも積極的にバイパス手術(大伏在静脈使用)を行っております(図6-3、4)。従来ではもうバイパス手術できないと言われて切断されていた状態でも、足を切断せずに治癒できた方が多数います。

非解剖学的バイパス手術 大伏静脈による膝下へのバイパス

冠動脈疾患との合併について

下肢閉塞性動脈硬化症の患者の30〜40%の方が、冠動脈(心臓を栄養する血管)に何らかの治療を必要とする状態(狭心症)であると言われております。この状態は、急性心筋梗塞を起こしかねない状態ということであります。下肢動脈バイパス手術後の重大な合併症として急性心筋梗塞が挙げられ、手術は上手くいったのに手術後に心筋梗塞を起こして命を落とすということが実際に起こりうるのです。また、この病気になって治療を必要とする方は、全身の動脈硬化が進行しており、数年の間に心筋梗塞や脳梗塞などを患う可能性が非常に高いと言われており、足の切断を予防することとともに命に係る心臓・脳の病気も並行して治療していくことが非常に大切となります。 このため、当院では、下肢閉塞性動脈硬化症の手術をする患者には、冠動脈造影検査を受けていただき、心筋梗塞を起こしうるかどうか評価し、必要なら、冠動脈バイパス手術などの冠動脈の治療を同時に行なったり、場合により先んじて冠動脈の治療を行ったりすることもあります。閉塞性動脈硬化症の外科治療を受ける予定の患者が冠動脈疾患に対する治療を受ける場合は、当科では、冠動脈バイパス術をお勧めしております。カテーテル治療(ステント留置)を行うと6ヶ月から1年の間強い抗凝固剤を飲まなくてはならず、中止すると、ステント内血栓閉塞の危険が高まります。その間に手術をしようとしたり、緊急手術になったりした場合、出血に対するリスクが非常に高くなってしまいます。冠動脈バイパス手術であれば、確実に心臓の治療を一回で終わらせ、10日もあれば十分次の治療計画を立てることができます。また、術後に抗凝固剤を一時的に中止しても大丈夫です。