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小児外科
はじめに
小児外科は生まれて数時間の赤ちゃんから15歳(中学生)までのこどもの外科的な病気を治療する分野です。2011年現在、当科には二名の小児外科医が在籍しており、専門的な知識と技術のもとに治療を行っています。
小児外科の対象疾患
新生児期から乳幼児期、学童期それぞれにおいて治療対象になる疾患が異なることが大きな特徴です。それぞれの疾患の詳細については日本小児外科学会のホームページを参照してください。参照先の一覧でもおわかりでしょうが実にたくさんの病気が小児外科の対象疾患になります。
以下に発症時期と代表的な疾患について簡単に表にまとめました。
| 年 齢 | 病 名 | 症 状 |
|---|---|---|
| 新生児期 (生まれてから1か月まで) |
リンパ管腫 | 体表(首に多い)のやわらかいふくらみ |
| 横隔膜ヘルニア | 呼吸困難、チアノーゼ | |
| 先天性食道閉鎖症 | 嘔吐、ミルク摂取不能 | |
| 胃食道逆流症 | 頻発する授乳後の嘔吐、ときに吐血 | |
| 胃破裂 | 突然の腹部のふくらみ、ショック状態 | |
| 十二指腸閉鎖症 | 胆汁の混じる嘔吐、ミルク摂取不能 | |
| 小腸閉鎖症 | 腹部のふくらみ、嘔吐 | |
| 壊死性腸炎 | 腹部のはり、腸の壊死による腹膜炎 | |
| 先天性胆道閉鎖症 | 継続する黄疸、灰白色便 | |
| ヒルシュスプルング病 | 頑固な便秘、腹部のふくらみ | |
| 鎖肛(直腸肛門奇形) | 肛門の欠如あるいは低形成、位置異常 | |
| 臍帯ヘルニア | 臍帯から腸管が脱出 | |
| 腹壁破裂 | 腹壁から腸管が脱出 | |
| 肥厚性幽門狭窄症 | 徐々にひどくなる噴水状の嘔吐 | |
| 乳幼児期 (1か月から小学校入学まで) |
鼡径ヘルニア | でたりひっこんだりするふくらみ |
| 乳児痔瘻・肛門周囲膿瘍 | 肛門真横のうみ(ほとんど男児) | |
| 裂肛 | 排便後の真っ赤な出血 | |
| 陰嚢水腫・精索水腫 | 陰嚢の腫れ(痛みはない) | |
| 停留精巣 | 陰嚢内に精巣を触れない | |
| 臍ヘルニア | おへそのふくらみ(でべそ) | |
| メッケル憩室症 | 腹痛、嘔吐、多量の血便 | |
| 正中頸嚢胞 | のどの真ん中の柔らかいできもの | |
| 先天性胆道拡張症 | 繰り返す発熱、腹痛、黄疸 | |
| 腸回転異常症 | とつぜんの嘔吐、血便、腹満 | |
| 腸重積症 | 嘔吐、腹痛(間欠的)、血便 | |
| 若年性ポリープ | 血便、肛門からポリープが脱出 | |
| 学童期 (小学生から中学生) |
急性虫垂炎 | 胃あるいは臍の痛みから右下腹部痛 |
| 胃・十二指腸潰瘍 | 胃痛、嘔吐、吐血、タール便 | |
| 胆石症 | 発熱、腹痛、肝機能障害 | |
| 先天性胆道拡張症 | 繰り返す発熱、腹痛、黄疸 | |
| 鼡径ヘルニア | でたりひっこんだりするふくらみ |
かならず上記の時期に発症するわけではありませんし、すべてに手術が必要というわけでもありません。受診時の年齢によって対象になる疾患が異なることを考慮して診察をしています。
鼠径ヘルニアとはどんな病気?
以下に小児外科でもっとも多い病気。鼡径ヘルニアについて記載します。
鼠径ヘルニアとはどんな病気?
お父さん、お母さんがお子さんをお風呂に入れているとき、あるいはオムツを交換しているとき、赤ちゃんの太もものつけねのところ(鼠径部)が柔らかくマシュマロのように膨らんでいる、陰嚢(いんのう)が大きく膨らんでいるという状態に気づいたら、それは鼠径ヘルニアである可能性があります。ここではその鼠径ヘルニア(いわゆる脱腸)に関して解説をします。
どうしてヘルニアになるのか?
お母さんの子宮の中に胎児がいるとき、その子が男の子であれば精巣(睾丸)はまだおなかの中にあります。生まれる頃にその精巣は本来の位置である陰嚢におさまります。この精巣が下降するとき鼠径管という通り道を通って腹膜を一緒に引っ張って降りてきます。
女の子の場合は子宮をささえる円靭帯という組織が同様に腹膜を引っ張ってきて恥骨(ちこつ)にくっつきます。そしてこの腹膜が袋状に残ったものがヘルニア嚢(のう)と呼ばれる袋です(図1)。多くのこどもでは袋は小さく、自然に癒着して閉じますが、大きく残ったままになると、ここに腸が入り込みヘルニアになります。女の子の場合はときに卵巣がこの袋の中に引っぱり込まれてヘルニア内容になることがあります。
どんな症状がでるの?
症状は鼠径部や陰嚢のふくらみです(下の写真)。おなかに力が入ったとき、お風呂で筋肉の緊張がゆるんだときなどによく出てきます。女の子で卵巣が出ているときはこりこりとした硬い豆のようなものが恥骨の右か左の上方にふれます。これはおなかの中に戻ることはなかなかありません。

ヘルニアでこわいのは嵌頓(かんとん)という状態です。腸が袋の中に出てきたまま、おなかの中に戻らない状態をこう呼びます。このとき普段柔らかいふくらみは硬くなり、赤ちゃんであれば不機嫌になり泣き止むことがありません。ことばがしゃべれるこどもであればおなかが痛いと表現します。この状態が長く続くと腸が壊死といわれる状態になり腸組織が死んでしまいます。これは緊急手術が必要な状況です。しかし、たいていは非還納性ヘルニアという状態であることが多く、手で戻すことが可能です。とはいっても、安易な判断は危険ですので専門家に診てもらうことをお勧めします。
手術はしなければいけないの? ほうっておくとどうなるの?
手術を行う主な理由は前に述べた嵌頓の危険からです。また、女の子で卵巣が出ている場合は手術をしないとおなかの中に戻りません。卵巣はそれを栄養する血管が細く嵌頓をおこすことはまずないので神経質になる必要はありません。しかし卵巣は暖かい環境(おなかの中)でないと十分に機能しないので、なるべく早く手術をしておなかの中に戻すほうがよいでしょう。
ヘルニアが自然にでなくなることがまれに経験されますが、それが永久的な治癒かどうかの結論はまだ出ていません。大きいものや卵巣の脱出しているものでは手術が必要になります。現状では、嵌頓の予想が困難であること、手術が安全、短時間に行われるということで発見次第に予定を立てて手術を行うのが一般的です。しかし、生まれたばかりの赤ちゃんでは組織がしっかりしていないので、通常は生後3カ月以降に行います。
どんな手術をするの? 手術は簡単なの?

こどもの場合、手術はすべて全身麻酔で行います。手術1週前に外来で血液検査、尿検査、レントゲン検査、感染症などの術前検査を行います。当病院では手術前日の午後に入院していただき麻酔科の先生から全身麻酔についての説明があります。お母さんの付き添いは希望があれば可能ですが個室の差額費用がかかります。手術日の朝に前投薬といわれる鎮静薬を飲んでもらいます。手術室にはいりマスクで呼吸するうちに麻酔がかかりお子さんは眠ってしまいます。ここで、点滴をします。ですから術前検査の採血以外にこどもが痛い思いをすることはありません。その後、手術する体の場所(下腹部)を消毒します。そして殺菌された布をかけ手術が始まります(図2)。組織を分け鼠径管にたどり着くと、そこに袋(ヘルニア嚢)が見えてきます。この袋だけをおなかから出る根元のところで縛ります。皮膚は埋没縫合という方法で閉じます。これは吸収される糸で皮膚をよせる方法です。ですから抜糸は不要です。最後に特殊なテープあるいは医療用の接着剤で皮膚をよせて終わりです。手術時間はだいたい20分から30分です。この後、麻酔からさめ、病室に帰ります。
手術室に入ってから病室に戻るまで1時間前後かかります。ヘルニアが両方にある場合はもう少し時間がかかります。
入院期間はどれくらい?
病室に帰り4時間ぐらいしたら水を飲んでもらいます。水を飲んで大丈夫であれば食事が普通に始まります。痛みはほとんどありませんが痛いときには痛み止めの坐薬を使います。普通は1〜2回の使用で十分です。翌日、発熱などの問題がなければ午前中に退院します。つまり入院期間は通常2泊3日です。傷口は特殊なシートで保護されていますので次回1週間後の外来受診日まで消毒の必要はありません。再診時に外来でシートとテープをはがしてヘルニアの治療は終了です。
手術後に気をつけることはどんなこと?
無菌手術ですので傷の消毒は必要ありません。また、水を通さないシートですので多少おしっこでぬれても大丈夫です。お風呂は退院日の夜からシートをつけたまま通常に入っても問題ありません。心配であればシャワーのみにしてください。洗髪も問題ありません。年長児では幼稚園や学校への通学は本人がいきたければかまいませんが傷口をぶつけるようなこと(体操、クラブ活動など)はさけたほうがよいでしょう。
以上が鼠径ヘルニアについての一般的な治療経過です。人間が行うことですから完璧ということはありませんが統計上、再発率は0.3%程度の低さです。
小児の鏡視下手術
成人と同様に小児においても内視鏡カメラを使用した手術(鏡視下手術)の適応疾患が多くなってきています。当科でも2009年より機器を準備し腹腔鏡・胸腔鏡の手術を行っています。とくにこどもの鼡径ヘルニアは今後腹腔鏡の手術が標準手術になるぐらい全国的に増加しています。
これまで実施した疾患は下記の通りです。
- 鼡径ヘルニア(LPEC法)
- メッケル憩室
- 胃食道逆流症
- 虫垂炎(程度の軽いもの)
- 学童児の自然気胸
- 脳室・腹腔シャントの留置
今後も適応疾患があれば保護者の方とも相談の上、腹腔鏡の手術をすすめていく予定です。













